【創作物語】三つの名前を持った猫 その4

(ここでびびったらおしまいだ)と思った私は、ソファーの上に飛び乗って、背中を山の様に曲げ、毛を逆立てて、おまけにしっぽを十倍位にふくらませて、犬どもをにらみつけフウーッ、と威嚇して見せた。
 犬たちは、そんな私を見て、フフウーンと鼻で笑いながら言った。
「よせ、よせ。チビ公。今日から君もこのファミリーの一員だ。仲良くやろうぜ、俺は、アルというんだ」
 背の高い白い犬が言った。
「私は、オマ、あんたは」
 ずんぐりした茶色の犬が聞いた。
「ダニヘル」
「よろしくね、ダニヘル」とオマが言い、
「仲良くやろうぜ」とアル。
 後で知ったのだが、アルはスタンダードプードルという犬種のオスで、オマは、ブルーマスティフという犬種のメス。
 傍らで、我々の様子を見ていたコウと呼ばれていた男の子が言った。
「この猫を、マルコという名前にしよう」
 それから私を抱き上げて、
「おまえは、今日から、マルコだよ、オマのマ、アルのルから一字ずつ取って、おまえは女の子だから子を付けて“マル子”だよ」
 その後、犬たちにむかって、
「今からこの猫は、マル子だよ、仲良くしろよ」とにっこりした。
 ダニヘルというありがたくない名前におさらばした瞬間だった。
(マル子、マル子)私は心の中で、自分の名前を反芻してみた。嬉しかった。家族の一員として認められたのだ。
 中田家は、父さん、母さん、お爺さん、お婆さん、男の子二人(ユウ君、コウ君)それにアル、オマに私の六人と三匹の家族だ。
 みんなわたしをかわいがってくれた。とりわけオマは、母さんのようにやさしかった。
 私は、犬舎に犬と一緒に入って、オマの傍らで毎日寝た。
 私専用の暖かいベッドも用意されていたが、オマの傍が一番安らいだ。
 暖かい家族に囲まれて、十分な食事も与えられて本当に幸福だった。
 一年が過ぎた。
 人間と違って、私たち動物は、一年経つともう立派な大人だ。
 家の中ばかりで、過ごしていたが、窓から外の景色を見ていたら、小鳥が庭にやってきて枝から枝へ、チョンチョンと、飛び回っているのが見える。
 蝶々や虫たちも太陽に誘われて飛んでくる。
 持って生まれたハンターの精神がうずく。
 外に出てみたい。ニャニャニャーンと髭を震わせて鳴いてみるが誰も窓を開けてくれない。
 私の頭の中は、どうにかして外に出る方法はないか、という思いで一杯だった。

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