【創作物語】三つの名前を持った猫 その7

公園が見えてくるとノラはスピードを緩めた。私は、はぁはぁと肩で息をしていたがノラは息の乱れもなかった。 
 公園に着くと立ち止まって、ノラは私にゆっくりと話しかけた。
「今日は俺の生活ぶりを見せてやるよ。ついてくるかい?」
「ほんと、行く行く、楽しみ」
 ノラについていくと、ノラは一軒の家の垣根の隙間からそうっと庭に入った。
 庭は、比較的広く、美しく整頓されていた。
 家の裏庭に回ると、五匹の猫が集まっていて、ノラを見ると、みな口ぐちに挨拶した。
「この家は、小川さんといってな、我々ノラにとっては神様みたいにありがたい家なんだ。
ここのおばさんは、六時になると、必ず餌を持って出てきて、我々にくれるんだ。口込みでそれが伝わって、小川さん家に行けば餌にありつけるてんで、腹ペコ連中が集まってくるのさ」
 猫達は木に登っているもの、木陰で寝ているもの、じゃれあっているもの、皆んなそれぞれに楽しんでいるように思えた。      
そうしているうちに夕焼けこやけのメロデイーが防災無線から流れてきて、六時を告げた。
 メロディーが、終わらないうちに叔母さんが大きな袋をかかえて出てきた。皆はわれさきにと叔母さんの傍に群がるように駆け寄っていく。
叔母さんはすばやく数を数えると七皿に餌を入れて一匹一匹の前に置いた。
「猫ちゃんたち、さあ、たんとおあがり」
 そういうと、自分は少し後ろにしりぞいて猫の食べる様子を満足気に見ていた。
 みんなノラだというのに、どの猫も、毛並みがよく、太ってはいないけれど、やせてもなく、丁度ころあいなのだ。私の分もあったので、お相伴に預かって少しいただいた。
 残した私の分は、ノラが、たいらげた。
 食事を終えた者から順にいなくなった。
「さてと、俺たちも行くとするか」
 小川さんの庭を出ると、ノラは、彼だけの秘密を教えてくれた。
 小川さんの家から、2百メートル位下った所に、岸さんという家があって、そこの奥さんも自分に餌をくれるということを教えた。
「誰にも言うなよ。マル子だけだよこれは」
 彼の語ったところによると、岸さん家の、ご主人は猫嫌いで、猫好きの奥さんは、本当は家の中で飼いたいのだけど、家の中に入れられないので、ガレージの中の物置をいつも十センチメートルほど開けておいてくれる。
 二段目の棚の上に、ダンボール箱を置いてその中に、もう使わなくなったベィビー毛布を、四つ折にして、寝床を作ってくれているらしい。
 庭いじりの好きな奥さんが、庭の手入れをしているときは、ノラも一緒について歩いたりしているとか。
「どうして、そんな大事なこと、私に教えるの」 
「おまえは、ノラじゃないからさ。俺の縄張りを荒らす心配がないからだよ。うっかり他のノラにしゃべったりしたら、大変なことになるよ」
 自分と違ってノラたちはみんな自立しているんだと感心させられた。
 それから、興味津々で十日間、家に帰らずに、ノラと生活を共にした。

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